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銚子丸が「ギネス世界記録」を目標にした狙いと認定されことの意義とは

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第八十弾

 
すしチェーンの飲食業、株式会社銚子丸(本社/千葉市美浜区、代表/石井憲)では、さる11月1日「ギネス世界記録」に挑戦し、その日にその目標を達成した。テーマは「鮪解体ショーを同時におこなった最多数(複数会場)~数値目標60店舗」ということ。これに挑戦した後、ギネス世界記録公式認定員によって審査が行われ、その結果、銚子丸のこの挑戦は、見事「ギネス世界記録」に認定された。
筆者は、この日、このメイン会場である「すし銚子丸」光が丘店に居て、これらの一部始終を取材した。そして、銚子丸がこれに挑戦した意義について考えた。
 
約40㎏の長崎産本マグロの解体ショーが、1日2回披露された【約40㎏の長崎産本マグロの解体ショーが、1日2回披露された】
 

厳密に定められた審査のルールと規準

銚子丸は1977年に創業。現在の主力業態であるグルメ回転ずし「すし銚子丸」は1998年10月千葉県市川市内にオープンし、以来一都三県を中心に6業態92店舗を展開している。
今回「ギネス世界記録」に挑戦した店舗は、このうちの71店舗である。
 
この挑戦上のルールは、①マグロの解体ショーを行った会場の数で表される。②解体ショーは、すべて同じ時刻、同じ形式で行われる。③解体ショーは専門的な基準に基づいて行われ、規準に満たないと判断された場合は、記録として認められない。――ということ。
 
そこで、挑戦する71店舗が11時30分同時にマグロに包丁を入れる。解体は、背と腹の部分に進んで、四つ割りにする。この工程を、11時38分まで終える。これらの証人として、銚子丸の顧客から各店舗3人が担当し(計213人)、用意されたマニュアル基づいて、審査の項目にチェックした。ここで、解体の手順が指定された基準と異なっている、規定の時間を超えた、といったお店はNGとなる。

この日は、一般のお客も通常通りに入店していた。満席であるから、席に座れない人は、受付番号を手にして、ウエーティングの椅子に座っていて、この「ギネス世界記録」への挑戦の一部始終を見ている。
 
11時25分より「お練り」と言って、この日解体されるマグロ(長崎産本マグロ、約40kℊ)が店内をゆっくりと巡回。店内の目に付くところに、カウントダウンの時刻を示すボードが置かれて、小刻みに時間を表示している。司会者が、カウントダウンを始めて、会場の気分は一気に高揚していった。
 
解体ショーが始まる5分前に、主役のマグロが店内を「お練り」した【解体ショーが始まる5分前に、主役のマグロが店内を「お練り」した】
 
店舗の中には、71店舗の全店の解体の様子をモニターが映し出し、全店の進行状況が一目瞭然で把握できた。この仕組みをつくるための、同社の熱意が伝わってきた。
 
「ギネス世界記録」に挑戦している71店舗の様子が一つのモニターで映し出された"【「ギネス世界記録」に挑戦している71店舗の様子が一つのモニターで映し出された】
 

「マグロの解体ショー」は、現場が燃える存在

この「ギネス世界記録」への挑戦のアイデアが生まれたのは、同社の現場と経営陣の想いが伴ったものであった。現同社代表の石井氏がこう語る。
 
「当社の店舗では、20年ほど前から『マグロの解体ショー』は行っていました。しかし、コロナ禍となって、その開催を止めていた。すると、現場から『燃えるものが無い』と声が上がるようになった。マグロの解体ショーは、現場の士気を高めてお客様に喜んでいただく存在であるということを認識するようになりました」
 
「また、私の前任の代表が、会議でふと『わが社で、ギネスに挑戦できるものはないかね』とつぶやきました。すると、幹部社員が『わが社だったら、全店でマグロの解体ショーを同時に行うことは、容易にできますよ』という。わが社の社員は約450人で、全員が調理の技術者です。このようなわが社の人材力、技術力によって、ギネス世界記録に挑戦しよう、とまとまりました」
 
こうして、今年の2月にプロジェクトが立ち上がり、認定団体のギネスワールドレコーズジャパンとの交渉を進め、6月より「ギネス世界記録」に向けたトレーニングに取り掛かった。挑戦する71店舗には、銚子丸の調理人として5年以上の実績を持つ塵埃が3人ずつ配備された。
 
ちなみに「ギネス世界記録」とは、世界中からあらゆる世界一を収集し、公に認定する組織を示すもの。世界記録のデータベースに登録されている記録の数は、およそ6万5000件にのぼる。世界記録の収集・管理をミッションとする記録管理部と、そこに所属する公式認定員が世界中を飛び回り、あらゆる人・団体の取り組みにスポットライトを当て、それを世界中に広げるために活動を続けている。
 
「ギネス世界記録」の基準となるポイントは、4つが存在ずる。それは、①測定できる「Measurable」、②証明できる「Verifiable」、③標準化できる「Standardizable」、④更新できる「Breakable」というもの。そこで、銚子丸の挑戦のテーマは「鮪の解体ショーを同時に行った、複数会場の記録」となり、記録として認められるのは「60カ所以上の会場が必要である」と定まった。
 

社内の求心力を高めて、顧客との結び付きを深める

銚子丸の約450人の社員は、みな料理技術を持っていると前述した。同社に入社するパターンは、これまで外の「すしの職場」で調理経験を積んで、同社に中途で入社してくるパターン。もう一つ、新卒生を定期採用して、豊洲の市場にワンブースを借りて、技術の集中トレーニングを行う、というパターンが存在する。約450人のうち半分が後者のパターンとなっていて、これらの人材が、いま店長やマネージャーに育っている。
 
マグロは解体ショーの後に「すし」として提供、ライブ感が食味を高める【マグロは解体ショーの後に「すし」として提供、ライブ感が食味を高める】
 
また、同社では「アルバイトでも玉子焼きを焼くことができる」ということを、対外的にアピールしている。同社では、玉子焼きに限らず、すしの握りや、接客などさまざまの技能トレーニングの動画が存在していて、従業員それぞれのスマホにアカウントを持たせて、どこでもこれらを見ることが出来るという学びの環境を整えている。
 
これで学んだ従業員が、自分が習熟した様子を自撮りして担当者に送ると、それを担当者が評価するという仕組みが出来上がっている。
 
同社専務取締役の堀地元氏はこう語る。
「当社では、お客様と従業員が人としてつながることが飲食業である当社のあるべき姿だと思っています。そこで、すべての従業員には、調理の見識を持ってお客様に接してほしいと考えています。デザート一つも内製化しています」
 
認定式を終えての記念写真。中央が石井代表、右端が堀地専務【認定式を終えての記念写真。中央が石井代表、右端が堀地専務】
 
「店舗には『店長』『料理長』『座長』『女将』という役職を置いて、それぞれのポジションから店の活気をつくっています。店は舞台、従業員は役者、お客様は観客という『劇場コンセプト』です。私たちは『真心』を提供し、お客様の『感謝と喜び』をいただくこと、という経営理念に基づいて実践しています」
 
代表の石井氏と専務の堀地氏の談話から、「ギネス世界記録」への挑戦が、改めて同社の求心力を高める狙いに役立つものと考えられたようだ。
 
ちなみに同社では、11月1日から11月30日まで「創業祭」を行っている。ここでは、さまざまお得なメニューを曜日替わり、週替わりなどで提案。また、プレゼント企画が満載となっている。この初日の11月1日に獲得した「ギネス世界記録認定」は、社内の求心力をより高めて、お客との結び付きを強めることの大きなきっかけとなるであろう。
 
「劇場コンセプト」の店内は、掛け声が飛び交って活気に満ちている【「劇場コンセプト」の店内は、掛け声が飛び交って活気に満ちている】
 

 
千葉哲幸(ちば てつゆき)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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