ニュース・特集

小さな飲食店だからこそ使える、44時間特例のはなし

画像

社労士 浦辺里香が指南する「はじめての飲食店経営で必要な労働法」Vol.4

 
労働時間といえば、「一日8時間、一週40時間」というのが原則であり、この数字はどこかで耳にしたことがあると思います。これは法律で定められた労働時間の上限であり、必ず守らなければならない最低限のルールです。ところが、従業員の少ない飲食店には「特例」が用意されています。そこで今回は、労働時間の上手な使い方について、特例を踏まえて確認してみましょう。
 

小さな飲食店に、朗報!

会社員の一般的な出勤スケジュールといえば、月曜から金曜までは一日8時間働き、土日祝日は休み…というようなイメージでしょう。しかし、飲食店は土日休みというわけにはいきません。オフィス街など、場所的な事情から週末を定休日とする店舗は別ですが、多くの飲食店の定休日は平日となる傾向にあります。
 
さらに事業主は、店舗の定休日とは別に労働者の休日を確保する必要があります。それと同時に、一日の労働時間についても8時間まで(休憩を除く)というルールがあるため、労働者の人数が少ない店舗は人手不足に悩まされることも―。
 
そんな小規模の飲食店経営者に朗報があります。
 
労働時間について、労働基準法で「10人未満の特例措置対象事業場*1は、一日8時間、一週44時間まで労働させることができる」という特例が設けられているのです。特例措置対象事業場というのは、飲食店や理美容業、介護施設、旅館、ゴルフ場などの商業・サービス業が該当します。そして、これらの業種で10人未満の労働者を雇用している事業場については、週44時間まで働かせることができるのです。
 
「たった4時間しか違わないじゃないか!」
 
確かにその通りです。しかし、これが2週続けばどうでしょう?8時間、つまり一日分の労働時間となるのです。これは小さいようで大きな変化なのです。
 

週44時間の上手な使い方

念のために補足しますが、一週44時間働かせた場合は、当然、その分の賃金を支払う必要があります。通常ならば、週40時間を超えた部分は「割増賃金」として、1.25倍の時給を支払わなければなりません。しかし、労働者10人未満の特例措置対象事業場ならば、週44時間までは1.00倍の時給、つまり、通常の時給を支払うだけでいいということです。
 
そして44時間特例の上手な使い方として、「一か月単位の変形労働時間制*2」とセットで勤務シフト作成をする、という方法を個人的には推奨します。変形労働時間制は、特別な労働時間の設定が可能となる制度で、事前に労働基準監督署へ届出をすることで、一日8時間を超えたり一週44時間を超えたりしても、割増賃金の支払いが不要となるのです。
 
しつこいようですが、あくまで「割増賃金(1.25倍の時給)」の支払いが不要というだけで、「時給」の支払いは必要であることをお忘れなく。
 
また、一か月単位の変形労働時間制と44時間特例の相性が良い理由として、「隔週週休二日制の実現」が挙げられます。一日の労働時間を8時間とすると、週5日で40時間、週6日で48時間となります。通常ならば週48時間労働は違法ですが、一か月単位の変形労働時間制を採用すればそれを免れます。詳細は割愛しますが、簡単にまとめると「一か月間を平均して、労働時間が一週44時間となればOK」というのが、一か月単位の変形労働時間制のメリットなのです。
 
一週目:40時間(週5日勤務/週休二日)
二週目:48時間(週6日勤務/週休一日)
三週目:40時間(週5日勤務/週休二日)
四週目:48時間(週6日勤務/週休一日)
 
このように、週休一日と週休二日を繰り返すことで、一か月間を平均すると週44時間におさめることができます。この方法ならば、勤務シフトを作成する事業主にとっても、店舗で働く労働者にとっても、分かりやすい上に管理しやすい勤務形態となるでしょう。
 
さらに、最近の求職者の傾向として「休日の確保」というのが、就職先を選ぶ上での重要な要素となりつつあります。そのため、隔週週休二日制が確保できるというのは、かなり魅力的な採用条件となり得るのです。
 
しかし、一か月単位の変形労働時間制を使用するためには、年に一度の労使協定の締結・届出または就業規則の作成・届出が必要となります。これらの届出をせずに勝手に労働時間を設定してしまうと、法定労働時間(一日8時間、一週44時間)を超えた部分は割増賃金の対象となり、逆に人件費がかさんでしまいます。
 
このようなことからも、一か月単位の変形労働時間制を採用する場合には、事前に、社会保険労務士や労働基準監督署へ相談し、適切に届出を行うようにしましょう。
 

44時間特例の注意点

今回お伝えした「44時間特例」について、事業場で働く労働者数が「10人未満」という人数制限があることを忘れてはなりません。これは、社員やアルバイトといった名称の違いによらず、週一日のアルバイトであっても「一人」とカウントされます。そのため、従業員が10人となった時点で、一週の労働時間は40時間が上限となってしまいます。
 
そして労働者数の増加により、44時間特例事業場ではなくなってしまった場合は、隔週週休二日制についても見直す必要があります。とはいえ労働者が増えるということは、勤務シフトの作成・管理がしやすくなる側面もあるので、労働者数と経営状況に合わせた柔軟な対応で、より良い労務管理を実現しましょう。
 
*1 特例措置対象事業場/徳島労働局
*2 一か月単位の変形労働時間制/厚生労働省
 
文:浦辺里香 特定社会保険労務士、ライター。飲食店などの接客・サービス業を中心に顧問を務める。趣味はブラジリアン柔術(茶帯)、クレー射撃スキート(元日本代表)。雑記ブログ「URABEを覗く時、URABEもまた、こちらを覗いている。」を、毎日投稿中。
 

 

「ニュース・特集」の関連記事

関連タグ

「ニュース・特集」記事の一覧