デリバリーに特化。新規開業者の課題を解決する「KitchenBASE」
コロナ禍での低コスト出店サポート 前編
コロナ禍で増えてきた事例に「出店時のハードルを下げる」というサポートが挙げられる。
これは個人店の場合、従来800万円から1500万円のコストがかかるものを、「10分の1」ないし、限りなく抑えられるようにして、また短期間で開業できるというサポートである。本来の初期投資はサポートの提供者が負担していて、出店者は家賃や、出店手数料という形でランニングコストを支払っていくという形だ。
このリポートの前編として「Kitchen BACE」(以下、KB)の事例を紹介する。運営しているのは株式会社SENTOEN(本社/東京都千代田区、代表/山口大介)である。
巨大なキッチンの基地からデリバリー業者が配送
KBとは、キッチンの集合体である。キッチンのそれぞれにはシェフがいて、ブランドがあり、お客がアプリで料理を注文して、出来上がった料理をUber Eatsや出前館などのデリバリープラットホームが配送する。
KBの1号店は2019年6月東京・中目黒にオープン。ビルの2階、元炉端焼店20坪の物件で、スケルトンにして一からつくり上げた。4ブースのキッチンをつくり、1カ所を自社で確保し、現在はこれらで5つのブランドが稼働している。
中目黒を立ち上げてから半年間が経過した2019年12月ごろから次の拠点の検討に入り、2020年8月に「KB新宿神楽坂」をオープンした。独自のノウハウで数千の物件からデリバリーの拠点にふさわしいエリア、ビル1棟借りが可能な物件を割り出していき、現在の物件を見つけた。ビルは5階建てで元出版社の倉庫であった。
【ランチタイム、ディナータイムと食事時にはデリバリー業者が続々とエントランスに詰めかける。】
ゴーストレストランの特性として、「飲食業の一等地でない場所でも営業できる」ということが挙げられるが、KB新宿神楽坂もJR市ヶ谷駅から徒歩15分程度、神楽坂のメイン通りからは外れていてセオリー通りと言える。ただし、後述するが1号店の中目黒にしろ、この新宿神楽坂も富裕層に類する人が多いということがポイントだ。
KB新宿神楽坂を訪ねると、1階正面上にある大きなモニターに次々と番号が表示されている。それは、お客からモバイルでオーダーされた商品が出来上がったことを示している。その下では。ここでのキーマンとなるスタッフがPCを操作しながら、続々とやって来る配送員に、オーダーを受けている商品の番号をモニターと照らし合わせて確認することをお願いしている。出来上がった料理は専用棚の保温ボックスの中に入れてある。
新規開業者にとってのさまざまな課題を解決
KBの特徴は大きく二つ。
まず「誰でも開業できる」。独立してデリバリーレストランをはじめて手掛ける人、拡大を目指す人にとってもすぐに開業できる。
次に「低リスク」。入居者は開業・退店時のコスト、ドライバーの採用など、デリバリーレストランの開業にまつわるリスクを最低限にとどめることができる。入居者は契約期間を6カ月、12カ月、24カ月以上から選ぶことができる。入居者の初期投資は保証金などを含めて100万円程度。一般的に実店舗を構える場合に800万~1000万円かかるところが、10分の1程度で済む、ということをうたっている。
それに対してレンタル料は実店舗を構えるよりも高い。その理由は、まず設備がフルセットであること。代表の山口氏のよると「ここでできない料理はピザかウナギのかば焼きぐらいでは」という。
【厨房機器は基本的なものが揃っている。ほか、自店で必要なものは自前で調達する。】
デリバリーのためにデリバリープラットホームに委託しようとしても3~4カ月待たされることが常だが、KBを通じてすぐに委託することができる。さらに、入居者それぞれの売上が伸びるように、店の画面のつくり方、料理画像のクオリティ、ポーションやプライシングなどについて、お客のクリック数、オーダー数、リピート数のデータを基にアドバイスを行う。
先に、ゴーストレストランはいわゆる飲食業の一等立地に出店する必要はない、といったことを述べたが、山口氏は「ゴーストレストランの一等地が存在する」という。
それは「3㎞に10万人の居住者がいる」といった類の統計があったとして、KBが出店した新宿神楽坂の10万人と別エリアの10万人を比較すると、デリバリープラットホームのダウンロードの数は圧倒的に新宿神楽坂の方が多い。山口氏をはじめKBの幹部はITの出身者で、彼らが独自に開発した仕組みによって、エリアごとにダウンロードの回数を調べ上げヒートマップを作成して選考している。
こうして絞り込まれた場所が新宿神楽坂であった。さらに、3月1日より浅草の22ブースのキッチンが入居受付。4月1日より中野の35ブースのキッチンが入居受付を行っている。
【顧客からの注文はキッチンのタブレットに直接入るようになっている。】
(後編)に続きます。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴36年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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