学生の街で低価格チャレンジ「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」
「激安新世代」として牽引する2人の経営者 前編
外食産業の歴史とは「低価格創造」の歴史である。飲食業を外食産業に押し上げた「ファストフード」と「ファミリーレストラン」は既存の「食べ物屋」に近代的な革新を取り入れ、マニュアル化して低価格の仕組みをつくった。
1980年代に大きく隆盛した大衆居酒屋チェーンも、既存の「居酒屋」における商品の品揃えを豊富にすると共に大量購買によって品質を安定させ、低価格で提供した。
これらは生活者に大いに歓迎され、大きな業界となっていった。
筆者は近年の外食産業で「低価格創造」のチャレンジャーが増えてきていると感じている。
その顕著な例として「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」と「BEEF KICHEN STAND」の動向を紹介しよう。
言葉づかいの若さと緻密な経営計画が同居
昨年11月15日、筆者がセミナーを行った後の懇親会で若い経営者と名刺を交換した。株式会社遊ダイニングプロジェクト(本社/千葉・流山市)代表取締役社長の和田成司氏で、名刺の他にいただいた名刺大の三つ折りのチラシにこのような文言が書かれてあった。
「私たちは圧倒的商品・発想力をもってwinwinの関係を築き3Kを実現します」
ここでいう「3K」とは「カッコイイ」「稼げる」「叶う」という意味だという。
「中期経営計画」も掲載されていて、2019年5月は店舗数24(直営7、FCなど17)売上高476,966(千円)、2021年5月が店舗数57(直営12、FCなど45)、売上高908,850(千円)と書かれている。言葉づかいの若さと緻密な経営計画が同居していた。
同社の主力業態である「居酒屋それゆけ!鶏ヤロー!」(以下、鶏ヤロー。他に「鮭ヤロー」もある)の本店は東武スカイツリーラインの獨協大学前にあるというので早速訪問。駅のロータリーでよく目出つ看板には「角ハイボール50円」「生ビール280円」「ドリンク全品99円」「宴会コース(3時間飲み放題付き)2000円」……このような圧倒的低価格を訴求している。
フードメニューは、フライドポテト食べ放題(19時まで)199円、鶏の串が1本120~150円、298円(クイックメニューなど)、499円(サラダ、鉄板料理など)のプライスラインにしている。圧倒的に安い。ただし、お通しが380円。店内で揚げる「えびせん」が食べ放題になっているが、これが“利益を生み出す基礎票”なのだろう。
「ハイボール50円」で学生・若者の多い街に出店
鶏ヤローの売り方に興味が湧き、同社代表取締役社長の和田成司氏にお会いした。和田氏は1982年12月生まれ、千葉県野田市で育つ。柏の調理師専門学校を卒業してから飲食の道に進み、焼肉店を展開する企業で店長、管理職を経験した後、焼肉店で起業した。当時27歳である。
柏の1号店はある程度利益を出していたが、2号店、3号店は散々であった。店長に売上金を持ち逃げされたこともあった。
このような状況の中で、かつての上司の紹介で松原団地(現在の獨協大学前)の居酒屋を運営受託することになった。この店の間近には低価格均一の焼鳥チェーンがあり、大変よく繁盛店していた。
「店内をお客さんでパンパンにして、この店に勝つためにはどうしたらよいか?」
和田氏はパートナーと一緒に策を練り、「タダにする」という作戦を考えた。
しかし「タダでは損する」――ということで、「ハイボール50円」ということを打ち出した。フードメニューの目玉は「唐揚げ食べ放題」(今は行っていない)。ほか、価格は前述のことを打ち出した。「メニューの一つ一つは安いが、客単価2000円になればいい」(和田氏)ということを目標とした。こうして2014年の2月4日、鶏ヤローの原型がスタートした。
果たして、初日から学生のお客さんが押し寄せるようになった。
人気の唐揚げ食べ放題の鶏肉は毎日70㎏仕入れていたが、ある日底をつき、唐揚げを出せなくなった。それでもオーダーが入って来るので、やむにやまれず「本日、唐揚げが終了しました」と宣言した。すると店内は大きくどよめき、「よっしゃー」と歓声が上がったという。
学生・若者が多い街で展開し、加盟店希望者が急増
このような経緯があり、和田氏は「これから学生が多い街で展開しよう」と考えた。学生にはSNSが浸透しお得な情報がすぐに伝わり、同じ学生が店内にいることから、気兼ねなくノリがいいからだ。この後、千葉大学のある西千葉、FCで文教大学のある北越谷、早稲田大学正門隣という店もある。
現在FC展開に力を入れているが、加盟金50円、ロイヤリティ毎月50円という漫画のような条件である。食材は配送が同じルートであれば同じ業者から仕入れるようにしていて、そうでない場合は独自に仕入れてもらう。
鶏ヤローはどのようにして経営を安定化させているのだろうか。和田氏によると、一般的なフードとドリンクの原価率を逆転させ、フードの原価率を抑えていること。そして、アルコールが大量に売れることから酒類メーカーから協賛金を得ている。「激安」であるがフードのオーダーによって客単価2000円弱となっている。
このようなユニークな売り方が評判を呼んで、鶏ヤローの加盟希望の会社が続々と増えている。今年、若干の直営店を含めて20店舗増える予定だ。
(後編)に続きます。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴36年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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