注目新店舗インタビューvol.6「鳥豊」創業大正元年の老舗が移転オープン 伝統の味を守り続ける現状
「浅草橋」から徒歩3分の場所に2020年11月9日に移転オープンしたのは、柳橋で大正元年から精肉店を営業していた「鳥豊」。老舗の精肉店がお弁当へ舵を切ったのは、2017年のこと。
今回の移転オープンに際しては、様々な事情が重なっていたそうです。今回、三代目であるオーナーの神品清一(コウジナセイイチ)さんにお話を伺いました。
―この度の移転オープンおめでとうございます。とても近距離での移転になりますが、どのような経緯があったのでしょうか。
(神品さん)はい、「鳥豊」は大正元年から柳橋で精肉店として生業を行ってきました。当時はこの辺りには、料亭もたくさんありとても賑わいを見せていたと聞いています。しかし、時代の流れに伴い料亭も姿を消したこともあり、精肉の他に惣菜をスタートし始めました。そして3年前からは、前の地にて惣菜・お弁当専門店として営業をしていたのです。ところが2年前、まさに私たちの地を囲むようにマンション建設の話が進んでいるという噂が。
―そうなんですね、たしかに本日移転前の場所に立ち寄りましたが、ビルの建設中でした。
(神品さん)さすがに、話を聞いたときに13Fとなる圧迫感もあるだろうなと。私たちのビルは4Fでしたので。母も含め、家族会議で土地を手放すことにしたんです。でも、その時に「この歴史あるお店をたたむ」という事実に本当にいいのか?と考えるようになり、近隣で、ちょうどよいサイズの物件があれば、移転もありかな?と考えるようになりました。
そこで土地の売買を担当していただいた不動産会社の方にサイズ感と希望を伝えておいたのです。そうしたら、レスタンダードさんの取り扱う今回の物件を紹介されまして。見てみたら、サイズ感も場所も希望とぴったり。ここしか見ずに決めましたね。
―大通り沿いですし、お弁当や惣菜を販売するにはとても良い立地ですよね。しかも、コロナでテイクアウト需要は伸びていますし。
(神品さん)6坪というコンパクトサイズがなんといっても気に入りました。前はタピオカ屋さんだったそうです。そのため、設備はほぼ流用できなかったので、造作はこちらで行いました。7月くらいに物件紹介を受け、8月に前のお店を閉店。9月からの2カ月のみお休みさせていただきました。本当は、10月にはオープンする予定だったのですが、東京電力の工事が遅れてしまって、11月9日になりました。
でも、工事が長引いたおかげで、新規のお客様から「何ができるの」「いつオープン?」などと感心を持っていただけたことは良かったかもしれません。大通り沿いなので、目立ちますしね。
―メニューは、移転前と変わっていないですか?
(神品さん)メニューは前のお店と変わっていません。メインは「きじ焼き」になります。きじ焼き弁当(680円)は、オープンから14時まで、私一人で焼き続けています。焼きながら提供していますが、たくさんの数をご希望の方は、電話で予約をしていただくことも可能です。他には、「そぼろ弁用(600円)チキンキーマカレーライス(600円)惣菜では、「から揚げ 大430円、小250円」や「なんこつ(250円)」「手羽先からあげ(250円)」「煮玉子1個(60円)」などを用意しています。
―コロナという未曽有の事態になりましたが、どのように受け止めていらっしゃいますか?
(神品さん)お弁当・惣菜のテイクアウトという時代にはあった業態なので、特に影響は出ておりません。逆に移転後は前よりも忙しいくらいです。しかもこちらのお店は14時までの営業なので、時短要請なども関係なく給付金も関係ありません。でもコロナが収まった時のために、立ち飲みスペースを考えた設計にしてはいるんですよ。
しかし、コロナの影響を受けているのが、私がシェフとして五反田で15年続けている海鮮のお店です。こちらは、35席ありますし、ディナー営業のみのお店なのでかなり痛手ですね。
―え?!神品さんは、お昼は鶏を焼き、夜は海鮮レストランのシェフなんですか?
(神品さん)そうなんです(笑)まったく異なるタイプのお店を2軒かけ持っている状態なんです。毎日6:30には「鳥豊」に出勤し14時まで営業し、次の日の仕込みをして、五反田のお店へという生活を続けています。16年間くらい風邪をひかないという健康な証拠ですね。定休は「鳥豊」は土日祝、「DEEP SEA CRAB」月曜だったので、まる1日の休みは中々なかったのですが、今年に入り「DEEP SEA CRAB」を日・月休みにしたので、少しカラダが楽になりましたね。
―神品さんが家業を継ぐという決意をしたのは、いつ頃なのでしょうか。
(神品さん)まあ、意識が芽生えたというのはもう物心ついたときでしょうね。長男ですし、いつかは継ぐことになるだろうなと。なので、それまでは好きなことをやろう!と。
中学・高校はテニスに打ち込み、卒業後はテニスのインストラクターに。その傍ら、ダイビングにもはまりまして、こちらもインストラクターの資格を取得しています。
25、6歳ごろになり、ようやく実家の手伝いをするようになりましたね、母が頑張っているのを見ていましたので。でも実は鶏よりも私は海鮮が好きでして(笑)横浜の天王町にあった蟹の専門店に惚れ込み、海鮮のお店をオープンするという人生です。
今年は行けていませんが、毎年沖縄にカジキ釣りにいってましたし、西伊豆に年に数回訪問するなど、海にまつわる地域が大好きですね。
―すごいパワフルな人生ですね。
(神品さん)そうですね、風邪もひかず2店舗を守れているというのは幸せなことです。特に、「鳥豊」の歴史は108年に及びます。店を畳むということがよぎったタイミングもありましたが、やはり実際に事実として向き合うと、お店を無くすということは寂しくてできませんでした。でも、その決断が、このコロナという世情の中で私たち家族を支えてくれることになりました。前からのお客様も、新規で知っていただいたお客様にも愛され続けるお店でありたいと思います。
店舗概要
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取材・文 青山友美 食専門のPR企画&編集・ライターとして活動中
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