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地元・川崎と「和食」に絞った業態展開でビジョンを切り拓く

川崎駅の東口方面にある仲見世通り界隈は、近年飲食店街として充実するようになってきた。さる2月18日、このエリアに「蕎麦と焼鳥 富治TOMIJI」(以下、富治)という店がオープン。この飲食店街を「和食が目立つ街」という印象をもたらすようになった。
「富治」を運営するのは株式会社Sunrise(本社/川崎市川崎区、代表/菊池厚志)で、同社にとって9店舗目になる。「富治」の向かい側には、同社の旗艦店舗である「魚炉魚炉 総本店」がある。この9店舗中の8店舗が川崎駅近くで、ドミナント展開をしている。地元に根差している「強さ」を感じさせる。
「富治」は、同社が既存業態で培ってきた「焼き」と「そば」のノウハウを合体し、昼も夜も稼働できる業態として考えられた。また、同社では海外出店も計画していて、和食の定番メニューがすべてそろった「ザ和食」の業態で挑戦しようと考えていた。「富治」は、それに備えた店舗でもある。このように、同社が和食に注力をするようになった経緯について述べていきたい。
【入口方面にロングカウンタ―とオープンキッチンが広がる】
「オレは、川崎のことを熟知している」
Sunrise代表の菊池氏(35歳)は地元・川崎の出身。20歳の当時に飲食業を志して、飲食業に従事。24歳の時に川崎で独立、開業した。地元で事業を始めようと考えたのは、「川崎以外で飲食業を体験したことが要因」と菊池氏は語る。
当時、菊池氏は東京・学芸大学で、業務委託で店舗を運営していた。このとき、はじめて川崎以外で生活をした。そこで川崎のことを客観視するようになり「川崎って、すごい街だな」と気づくようになったという。
まず、川崎は人口が多い。しかしながら、川崎には飲食店が少ない。物件が少ないことから、新規参入も少ない。菊池氏は「オレは、川崎のことを熟知しているわけだから、ここで飲食を起業しよう」と考えた。
菊池氏は独立に際して「5年間で5店舗やろう」と目標を立てた。そこで、「川崎にない店をやろう」と考えた。この当時、川崎に炉端焼きがないことに気づき、この業態の開業を目指した。
また、このころ「居酒屋甲子園」の活動をはじめて、ここで東京・西新宿で炉端焼きの「ろばた翔」を経営している國利翔氏と親しくなった。そこで、Sunriseの従業員と一緒に、同店を手伝うようになり、炉端焼きの技術を習得した。こうして2018年1月に京急川崎駅の近くに炉端焼き「魚炉魚炉」をオープンした。
この店舗名は菊池氏が発案したもので、絶妙である。「それは店名を見た人が、どんな店か、すぐ分かる、ということを考えた結果生まれました。魚と炉端焼きという業態であるということを突き詰めて考えていって、この中の『魚』と『炉』でいいじゃないか、と。そこで『魚炉魚炉』だとひらめいた」という。
この「魚炉魚炉」はたちまち繁盛店となった。同社では多店化するようになり8店舗に広げた。しかしながら、コロナ禍となった。同社は4店舗に縮小した。
【メニューは、シンプルで親しみやすい和食で構成されている】
「炉端焼き」は自分たちが得意な業態
ここで菊池氏は、あたらためて「炉端焼きの強さ」をいうものを感じ取ったという。店を閉店していく一方で、「魚炉魚炉」には底堅いものがあった。そこで、「自分たちは炉端焼きが得意だ」と、ここに意識を傾けるようになった。
2020年11月、仲見世通りと交差する近くに路面で38坪の新築物件が出た。ここでSunriseは勝負に出る。コロナ禍真っただながら、早速物件を獲得した。京急川崎の場所よりも、飲食店街が充実していて、地元・川崎の人にとって親しまれているエリアである。そして、「空家賃を払わないで、得意な業態で商売を始めよう」と、営業を開始した。
この店「魚炉魚炉 総本店」は、川崎にはなかった丸型のカウンターをつくり、地元に斬新なイメージをもたらした。お店は16時にオープンにして、16時から19時までを「オイスターアワー」として、Sサイズの生ガキを1個99円(税別)で提供するようにした。この取り組みを行ったことで、この時間帯の集客が増えるようになった。材料もいいものを使うようにして、意図的に客単価を上げるようにした。客単価は5000円になっている。
菊池氏はこう語る。
「大きな物件で営業するのは、大きな決断が必要でした。しかしながら、このような物件で商売をしようと考える人は少ないものです。これが逆に、当社にとって有利に作用したようです」
そして、2024年5月、「魚炉魚炉 総本店」の近くの地下1階に「川崎 魚炉魚炉寿し」をオープンした。これによって「魚炉魚炉」の認知が広がった。
【Sunrise代表の菊池厚志氏。「地元・川崎」の有望性を確信している】
コロナ禍にあって、QSCを強化することにも取り組んだ。「環境整備点検」という名称で、菊池氏をはじめとした幹部社員が、毎月全店舗を回って店舗の状態をチェックするようになった。さらにMS(ミステリーショッパー=覆面調査)を行って、お客様満足度を数値化した。MSの数値が低い場合は、「お客から満足されていない」と認識して、この点数を上げるためにどうすればいいかと、この改善に毎月取り組むようになった。
「これらを継続していて、リピートが増えて、売上も上がりました。さらに、社員向けにマネジメントゲームの研修も行いました。このような地道な研修を毎月行なうことによって、社員のレベルも向上し整っていきました」(菊池氏)
社員の採用は、アルバイトから社員になる事例も増えてきている。直近1年間で5人がアルバイトから社員になった。この4月1日にアルバイトから社員になった人が2人いる。
コロナ禍にあって、Sunriseの前向きなチャレンジは、社風の中に「良い循環」をもたらしているようだ。
川崎を軸としたレイルウェイと海外戦略
Sunriseでは、コロナ禍をきっかけに「和食しかやらない」と決めた。菊池氏の父はそば店を営んでいて、菊池氏のルーツに「そば」が存在する。同社のこれまでの展開によって、「炉端焼き」も「すし」も「そば」もできる。このように和食のあらゆるものがそろった業態で、海外で勝負しようと考えるようになった。
【ランチもディナーにも対応できるメニュー内容(いまランチ営業はしていない)】
海外は、これまで東南アジアを想定していた。しかしながら、菊池氏が最近バンコクやホーチミンを訪ねるたびに「飽和状態」を感じるようになったという。一方、昨年ニューヨークに行って「ラーメン3000円」の世界を体験して、「海外に挑戦する意味はここにある」と思うようになった。菊池氏は「東南アジアで展開するということは、何か日本の延長線上にあって、ある意味、消去法で考えているのではないか」という。
いま菊池氏は、地元・川崎に本拠を置くことに有望性を感じ取っている。現在京急川崎の近くで2028年の完成を目指して「アリーナシティ・プロジェクト」が進められている。これによって、周辺も再開発されて、人口は年々増えている。
また、川崎臨海部の工業地帯で働く人たちも、川崎駅を起点にしている。このことも、川崎駅近くで商売をしていることの大きな強みであろう。同社の店舗では、「宴会」が戻ってきていているという。
さらに、昨年7月に横浜・桜木町に1店舗出店し、また今年の6月末に東京・丸の内に出店する。この2つは川崎から離れているが、同じ電車1本で行くことが可能で、移動も20分以内で至便である。
菊池氏は、「丸の内の店で年商10億円が見えてくるという感じですが、これから20億円まではこのような形で出店していきます」と語り、川崎を軸としたレイルウェイと海外戦略の2つを見据えて、ビジョンを掲げている。
【コロナ真っただ中にあって「魚炉魚炉総本店」をオープン。オーバーフローが生じることから、近隣で類似業態を営業することが検討されていた】
千葉哲幸(ちば てつゆき)
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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