“ワンデー・ワンアイデア”の習慣で「焼肉ライク」が培った多様な武器
コロナ禍で鍛えた企画力 前編
コロナ禍は飲食業に大きなダメージをもたらしている。しかし、一方で飲食業を鍛えたという側面もある。それを感じさせる事例として「焼肉ライク」の動向を紹介したい。
「焼肉ライク」は800店舗を超える「牛角」チェーンを生み出した西山知義氏が率いるダイニングイノベーションによって誕生。1号店がオープンしたのはいまから丸4年前の2018年8月29日、その後分社して焼肉ライク(本社/東京都渋谷区、代表/有村壮央〈もりひさ〉)となり、この8月末現在で全国に85店舗(うちFC79店舗)を展開している。
「7時間食べ放題」で大食いファンをつかむ
同チェーンの特徴は「1人につき1台の無煙ロースター」「注文から提供まで3分間、平均滞在時間25分間」「一番安いセットメニューが580円(税込)」といったこと。焼肉を食べたいときに1人でサクッと食べられる、ということだ。これが女性の潜在需要を引き出して女性客が3~5割となっている。
同チェーンの快進撃ぶりはPRtimesに挙げているニュースリリースで一目瞭然、多い月には3本程度が公開されている。直近で大ヒットしたものは「平日11時~18時、時間内無制限食べ放題」2170円(税込、以下同)と「焼肉フィットネス」サブスク月額1万780円である。
【7時間食べ放題「平日11時~18時、時間内無制限食べ放題」2170円(税込)は販売店舗を増やしている】
前者は、元々同チェーンの「メガ盛りセット」300g1290円、400g1790円が人気上位3位にあり、食べ放題ファンのお客から「一般の焼肉食べ放題は90分限定で落ち着かない」という声があったことから、新たに2170円のメニューを設定して「7時間食べ放題」にしたという。当初6月27日から7月31日の期間限定で難波なんさん通り店(大阪)と国立店(東京)の2店で提供していたが、好評を博したことから8月16日に提供店舗は20店舗に拡大した。
【元々「メガ盛り」は人気メニューで、2020年10月より、ごはん、スープ、キムチの食べ放題を行っていた】
「7時間食べ放題」であっても実際の利用客は1時間ないし1時間30分で食べ放題を終えるという。食べ放題を楽しむ人の実態はこのようなものだが、とは言え店側が「1時間」「1時間30分」と小刻みに区切って提供するのではなく「平日11時~18時時間内無制限‼」と表示していることに“遊び心”や“余裕”を感じる。そして、ピークタイムである18時以降は食べ放題の時間に充てていない。堅実な商売をしている。
「筋トレ」「低脂肪」「ロカボ」のメニュー
後者は、LINEサブスクシステムの「サブスクライン」によって「筋力アップ」「ダイエット」といった目的別につくられたメニューを恵比寿本店、赤坂見附店(東京)限定で毎日食べられるという内容。100名様限定で7月25日朝7時より販売を開始したところ開始5分で完売した。そして8月1日より上記2店限定で3種類のセットを各1490円で提供している。
【サブスクプランが公開5分で完売したことが話題となり、3種類の「焼肉フィットネス」は人気メニューとなる】
3種類のセットとは、まず「筋力アップセット200g」。鶏もも(皮なし)+牛赤身肉ハラミ、玉ねぎ、ごはん、キムチ、スープ、生卵付(ごはんをサラダ・ブロッコリーに変更可能)。次に「低脂肪セット200g」。鶏もも(皮なし)、玉ねぎ、ごはん、キムチ、スープ、生卵付(ごはんをサラダ・ブロッコリーに変更可能)。上記2セットのごはん、キムチ、スープ、生卵はおかわり自由。そして「ロカボセット200g」。これにはごはんはなく、牛赤身肉ロース+牛赤身肉ハラミ、玉ねぎ、ブロッコリー、キムチ、スープ、生卵付(ブロッコリーはサラダに変更可能)。これらには順に、780kcal、701kcal(ともにごはん普通盛りの場合)、554kcalとカロリー表示がなされ、脂質、炭水化物、糖質の量も表示されている。前者の「メガホ盛りセット」とは真逆の趣旨ではあるが「目的来店」となる点は共通している。
【「焼肉フィットネス」の「ロカボセット200g」1490円。カロリー555kcal、たんぱく質43.3g、脂質40.3g、糖質7.4g】
このような企画のアイデアはどのような環境からもたらされているのだろうか。焼肉ライクの有村壮央(もりひさ)代表はこう語る。
「ファウンダーの西山さんの時代に築かれたことですが、当社にはお客様の視点に立って徹底的に話し合う文化があります。ターゲットとは利用動機。これを明確にして、その人たちは何のために何をしたいのか、ということをブレーンストーミングしている。コロナ禍で厳しくなった中、社内的に“ワンデー・ワンアイデア”を行った。各人毎日アイデアを1本挙げようという運動。これがヒットするアイデアを生み出す環境をつくった」
業態が誕生してわずか4年である。そしてこのうちの2年半はコロナ禍であった。会社の中に確固とした軸足が存在しないと、業態を持続させることは困難ではなかったか。これを乗り越えたのは“ワンデー・ワンアイデア”の環境が育ったからという。これがどのようにして「焼肉ライク」を鍛えていったのか、後編で詳しく述べよう。
(後編)に続きます。
フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
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