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居酒屋から業態から食事メインに切り替えて大成功

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第二十五弾
コロナ禍による新しい転換 前編

 
コロナ禍は飲食事業者に対し多くの災難をもたらしている。しかしながら、これに抗う姿勢は平常時には持ちえないアイデアと行動力をもたらしている。その際立った好例として、神奈川・相模原エリアと東京・新宿三丁目エリアに営業拠点を構え、全12店舗を要する㈲珈琲新鮮館(本社/神奈川県相模原市、代表/沼田慎一郎)の事例を紹介したい。
 

飲食店街の小規模店を食事メインに切り替える

同社の相模原エリアは創業の土地で、カフェやラーメンといった食事がメインの店舗を展開している。新宿三丁目エリアには「もつ煮込み専門店 沼田」を4店舗展開している。
 
東京・新宿三丁目でドミナント出店をしている「もつ煮込み専門店 沼田」。【東京・新宿三丁目でドミナント出店をしている「もつ煮込み専門店 沼田」。】
 
新宿三丁目エリアは寄席の「末広亭」を中心にして飲食店街が形成されているが、アルコール主体の店が多いことから、このコロナ禍では時短営業要請も加わり閑散となった。一方の神奈川・相模原エリアは売上減が軽微にとどまった。平時より夜間の営業に依存していなかったことがその背景にある。
 
そこで、新宿三丁目エリアの店舗のどれかを食事メインに切り替えようと考えた。
 
まず、「もつ煮込み専門店沼田 はなれ」(以下、はなれ)の業態転換を図った。同店は6.5坪、9席の規模。同社が借り受ける前にカレーうどんを営んでいて、ラーメン店のオペレーションに向いていることから、ラーメン店を想定した。同社の社員はジョブローテーションでラーメン店を経験しているので、居酒屋から切り替えても全く無理なことはない。
 
営業の仕方は、ラーメン店のプロデュースを行っている㈱テイクユー(本社/東京都港区、代表/大澤武)の「ステルスFC」を行なおうと考えた。ステルスFCとは、決められた屋号ではなくオーナーが自由に店名を決めることができ、原材料の仕入れを本部から行うといった仕組みのFCである。
 
「貝香屋」の店頭。ラーメンファンは花の上にある「虎武」でこの店のクオリティの高さを察知する。【「貝香屋」の店頭。ラーメンファンは花の上にある「虎武」でこの店のクオリティの高さを察知する。】
 
さらにこの仕組みを活用して、これまで居酒屋がクローズしていたランチタイムにラーメン店を営業する「ランチラーメン」を推奨するようになった。
 
テイクユーがラーメン店を手掛けたのは2012年7月のこと。「鶏白湯」から始まり、「煮干し」が加わり、昨年の3月に「貝出汁」の直営店を出店した。また、ランチラーメンを導入した店が増えてきていることから、ステルスFCの各店舗とバッティングしないように、「担々麺」「二郎系」「濃厚豚骨」「博多豚骨」「貝出汁」という具合にスープのレシピをストックするようになった。
 

イメージ作戦が奏功しSNSでバズる

テイクユーがランチラーメンのプロデュースを初めて手掛けたのは5年程前、ランチ営業をしたいという居酒屋から相談を受けたことがきっかけであった。条件は「設備投資がない」ことだった。そこから「設備投資不要」「職人不要」という現在のラーメンプロデュースの仕組みが整っていった。基本的にはコンロが2台あれば十分という。テイクユーがメーカーにオーダーしたラーメンの麺、スープ、かえし、油は、メーカーが一括して加盟先にデリバリーを行っている。
 
「塩そば」850円(税込)。あっさりとしていながら貝の風味が濃く〆のラーメンにも向いている。【「塩そば」850円(税込)。あっさりとしていながら貝の風味が濃く〆のラーメンにも向いている。】
 
さて、はなれはテイクユーの「貝出汁」を採用した「貝出汁中華そば 貝香屋」(かいかや)に切り替え、看板も新しくつくり、1月16日よりラーメン店の営業を開始した。営業時間は11時30分~20時、商品は「醤油そば」(850円、税込以下同)、「塩そば」(850 円)、「味噌そば」(900円)、「辛味噌そば」(950円)、「まぜそば」(850円)で、それぞれ「味玉」「特製」も用意。「あさりの炊き込みご飯」200円、小150円の他に各種トッピングもある。
 
そして、開店5日を経過して突然バズった。
その要因として、店頭にテイクユーの直営店である「貝出汁らぁ麺 虎武」から贈呈された花を飾り、同店と関連性があることをラーメンファン向けてそこはかとなくアピールしたことが挙げられる。これによってSNSでこれに関連した書き込みがにわかに増えていった。
 
店頭に置いた価格表で専門店をアピールしている。【店頭に置いた価格表で専門店をアピールしている。】
 
また、同店が「もつ煮込み専門店 沼田」の姉妹店であることも知られるようになり、「煮込みがおいしい沼田のラーメンだから、おいしいに決まっている」といった好意的な書き込みがあった。
 
こうして前述の営業体制で日商10万円を超えたこともあり、現在も7万円を下回ることなく営業を継続している。時短営業要請を受けて、居酒屋を食事メインに切り替え、営業時間を前倒ししたことによって安定した売上を保つことができている。
 
(後編)に続きます。

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

 

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