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コロナ禍で「ドライブスルー八百屋」が大ヒット、「ベジ郎」の土台をつくる

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第三十四弾
奇跡の業態「ベジ郎」誕生物語 後編

 
「肉野菜炒め ベジ郎」(以下。ベジ郎)を開発した株式会社フードサプライ(本社/東京都大田区、代表/竹川敦史)は業務用野菜卸業で、顧客として関東圏を中心に約5000の飲食業を擁している。代表の竹川敦史氏は1979年生まれ。大学卒業後、冷凍食品の製造・販売の会社に就職し同社外食事業の新業態開発に携わった。その後、外食企業に転職。独立して焼肉店を手掛けた。その後、飲食店のコンサルティングを行うようになり、さらにビッグビジネスを志向して、飲食業に関わる流通業に進出することを考えた。
 
その業種として割り出したのが「八百屋」であった。理由は、飲食店にとって「野菜の仕入れ先は?」と考えたときに、すぐに思い浮かべることができないという側面があったから。「八百屋の顔が見えないということは、八百屋からの提案がないからだ」と想定した竹川氏は、コンサルティングの営業手法を野菜の流通に持ち込むことによって「八百屋の業界が変わる」と考えた。こうして2009年にフードサプライを立ち上げた。
 
同社のスキームはこうだ。同社が相手先とする飲食業(外食、中食、介護食)が使用する野菜は一般的に卸売業者が市場から買い付けたもの。一方で、近年の消費者ニーズは「新鮮」「無農薬」「有機栽培」など。このニーズを満たすためには生産者と契約し直送することが適している。そこで同社では、生産者と長期間の定期購買契約を結び新鮮野菜を仕入れる体制を整え、産直品を低リスクで購買したい飲食業に供給する仕組みを作り上げた。さらに市場からも仕入れ、自社農園も営みあるべき野菜の生産に取り組んでいる。
 
これが「味:醤油」「肉の量:中盛り100g」「野菜の量:普通400g」「背油の量:20g」800円の定食【これが「味:醤油」「肉の量:中盛り100g」「野菜の量:普通400g」「背油の量:20g」800円の定食】
 

コロナ禍で「野菜のB to C」を察知する

フードサプライがコロナ禍による飲食業の変化を感じ取ったのは2020年の3月上旬から。売上げが目減りするようになり「何とかしなければ」とその対策を模索していた。同社では飲食業から野菜を受注して、それを生産者に発注する形ではなく、生産者と定期購買契約を結び、さらに自社農園を営んでいることから、野菜はセンターに次々に送り込まれて在庫が増え続ける状態となった。4月7日、7都道府県に「緊急事態宣言」が発令。飲食店は休業・時短営業を余儀なくされ、業務用食材は行き場を失った。
 
路面の居酒屋に野菜の販売をアドバイスして多くの居酒屋が行った【路面の居酒屋に野菜の販売をアドバイスして多くの居酒屋が行った】
 
そして同社では4月9日、非接触の販売方法「ドライブスルー八百屋」を立ち上げた。代表の竹川氏はこう語る。
「この頃、スーパーはめちゃくちゃ売れていました。だからといってわれわれがすぐに参入できるという甘い世界ではありません。しかし、この状況はB to Cが活発になっているということ。マクドナルドを見ると店内はガラガラですが、ドライブスルーは大渋滞です。そこでドライブスルーの八百屋をやることをひらめいた。」
 
この野菜販売は「5000円」一本を考えた。社内では「高いのでは」とか「コロナ禍で外出を控えているのでは」という声もあった。こうして飲食業向けの野菜を一般消費者に販売する「ドライブスルー八百屋」は2020年4月9日、同社の京浜島センターでスタート。ピークの時には1200人が来店した。「5000円」と「3500円」の野菜の詰め合わせをラインアップし、7時間営業で日商500万円を売り上げた。
 
昨年4月に行った「ドライブスルー八百屋」の様子【昨年4月に行った「ドライブスルー八百屋」の様子】
 
なぜこのような活況を呈したのか、竹川氏はこのように分析する。
「毎日買い物をしていた人がコロナ禍で週に1、2回に減りまとめ買いのニーズが生まれた。外出を控えようとする傾向にある中で『食材の調達』は外出の大義名分となった。そして、外出しても家に帰るまでの時間を縮めたいという思いがあったから。」
 

コロナ禍で事業展開のバックボーンを築く

そして「生産者応援」という概念が付加された「ドライブスルー八百屋」をフードサプライでは全国の事業者に働きかけ最大で30カ所で展開、累計で6万人が来場した。
 
また、夜営業が出来なくなった居酒屋の事業者に日中「八百屋営業」を行うことをアドバイスして、賛同した事業者に野菜を供給した。さらに「もったいない野菜セット」1500円をつくり、飲食店の店頭で販売してもらうようにした。
 
しかしながら。緊急事態宣言が明けると同社は再び厳しい状況にさらされた。そこで「自分たちで野菜をコントロールできる事業」を模索するようになった。「野菜がたくさん売れる商売は何か」を考えていき、「野菜炒め」に行き着いた。町中華で4~5人で食事をすると大抵誰かが「野菜炒め」を注文する。定食にA、B、Cがあればその中に「野菜炒め」が存在する。「ご飯大盛無料」はあるが「野菜の大盛無料」は見たことがない。こうして“八百屋が営む野菜炒め専門店”の「ベジ郎」が誕生した。
 
フードサプライ代表の竹川敦史氏【フードサプライ代表の竹川敦史氏】
 
同社では全国の飲食業をネットワークする物流を持っている。そして、コロナ禍にあって全国の事業者とのパイプが出来て、さらに飲食事業者を応援するスタンスで歩んできた。今後「ベジ郎」が展開していく上で、これらの結び付きは力強いバックボーンとなっていくことであろう。
 

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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