飲食店を閉店する時に何が必要?有利になるためには?店舗の売却買取・手続きなどを解説
もとより飲食店は入れ替わりが激しく閉店の多い業種であり、それに加えて景気や流行の影響を受けやすく厳しい状況にある店舗も少なくありません。こういった状況下では、飲食店を閉店した上で別の場所にて新規開店したり、別事業にチャレンジしたりといった選択をしたほうが好転する場合もあります。
しかし、その場合もできる限り次につなげやすい状況を作った上で閉店することが重要となります。飲食店を閉店するとき、居抜きという形で売却することで、閉店時にかかる費用を削減し次につなげる資金の確保という可能性も生まれます。飲食店を閉店する際の居抜きの売却と買取、それらに必要な手続きについてご紹介します。
飲食店閉店の現状は?
飲食店は入れ替わりの激しい業界ということは、多くの人が肌で感じているのではないでしょうか。事実そのとおり、飲食店は閉店数の多い業種で、多くの飲食店が3年以内に閉店するといわれています。
従来から生き残り競争の激しい飲食店業界にさらに追い打ちをかけるように、世界は厳しい状況におかれています。2020年から全世界に広がった新型コロナウイルスは、日本のみならず世界の経済活動に大きな影を落としました。外出自粛要請、時短営業要請、緊急事態宣言などの措置を受け、多くの飲食企業の経営活動が停滞しました。
帝国データバンクの発表(PDF)では、2020年に倒産した飲食店は780件となっています。この数字は、2000年以降最多となった2019年の732件を超える多さです。東日本大震災の発生とそれによる輪番停電などがあり倒産数の多かった2011年は、10年間の倒産数を更新し688件とそれまでの最多を記録しました。しかし、2020年の倒産件数はそれを大きく上回ったことからも、飲食店業界がおかれている状況の深刻さがうかがえます。
また、帝国データバンクでは新型コロナウイルスに関連した倒産件数(PDF)も調査しています。こちらの調査は2020年から2021年にかけて、新型コロナウイルスに影響を受けた倒産のみをカウントし、全業種における合計の倒産件数を出しています。2020年6月には100件を超え、年度末となる2021年3月には180件にまで急増、2021年6月28日16時までの合計で1661件にまでのぼっています。
このように、厳しい状況が続き、飲食店は特に大きな影響を受け倒産数も多い傾向にあります。
こういった状況の中、閉店にも手続きの手間や費用がかかり大変というイメージがあり、閉店に踏み切れないまま苦労している飲食店経営者も多いのではないでしょうか。
実際には、それらのデメリットを最小限に抑える方法があります。飲食店の閉店を考えている、または閉店の際に有利な方法を探しているという方は、ぜひ参考にしていただきたい内容をご紹介していきます。
飲食店を閉店するにはいくつか方法がある
飲食店を閉店する際にとる手段として、「店舗売却」「事業譲渡」「造作譲渡」「事業転換」「業務委託」の5つの方法があります。
それぞれには次のような特徴があります。
店舗売却
店舗を次の使用者に売却する方法です。
土地や建物も所有している場合に選択肢となるほか、賃貸の場合も店舗の売却は可能です。店舗売却の詳しい内容については、次項から解説していきます。
事業譲渡
飲食店の経営を会社の事業の一部として行っている場合は、その飲食店部門の事業を譲渡する方法があります。
店舗の運営は存続しながら、新オーナーにバトンタッチすると考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
固定客の要望に答えたい場合や、店舗の伝統を残したいという理由から、飲食店事業を別会社に譲渡する場合が考えられます。また、独立開業を目指す人に譲渡するケースもあります。
造作譲渡
店舗の賃貸物件の場合、一般的に原状回復義務がありスケルトン状態にして退去しなければなりません。
しかし、次の借主も同様の事業を行う場合には内装や設備をそのまま使いたいという場合が多く、原状回復工事を望まないこともあります。
こういった場合によくとられるのが、造作譲渡という取引方法です。次の借主に店舗内の造作物を譲渡したうえで賃貸借契約を解約するという方法によって店舗を引き渡します。
特に飲食店に多く、内装・厨房機器・レジ・音響・カウンターやテーブルと椅子など、汎用性の高い店舗内部の造作物が含まれます。
造作譲渡についてはこちらでもご紹介しておりますのでご覧ください。
造作譲渡をして店を閉めたい!相場やメリットなど閉業前に知っておきたいこと|居抜き売却市場
事業転換
飲食店として運営していた店舗を閉店し、別の店舗として新たな事業を始めるといった場合に選択するのが、事業転換です。
所有または賃貸借契約を結んでいる場所の有効活用を優先する場合に選択することが多い方法です。
業務委託
第三者に対し業務の運営を依頼し任せるのが業務委託です。
立地や集客力に優れ店舗の営業自体は継続したいが、何らかの理由により運営継続が不可能になったというような場合には、業務委託によって運営を任せます。また、新店舗または新事業にリソースを回したい場合にも、この方法がとられます。
委託料や営業権の使用料といった形で、毎月の売上から一定割合の報酬を受け取るのが一般的です。
飲食店を売却するメリットは?普通に閉店する場合と比較
このように、飲食店を閉店する際にはいくつかの方法から最も損失が少なく、目的にあったものを選択することとなります。その中で、売却という方法を選択した場合にメリットが大きくなるのが「居抜き物件」としての売却です。
店舗を閉店する場合、引き渡す際の状態によって物件は「居抜き」と「スケルトン」の2種類に分けられます。居抜きは、什器や設備のすべて、または一部を残した状態で売却することをいいます。もう一方のスケルトンは、中身のない建物の基礎設備だけの状態のことです。一般的には、返却する際に原状回復工事をしてスケルトン状態にして返却します。
居抜きでの売却とスケルトンでの返却、この2つにはどういった違いがあるのでしょうか。居抜き物件で売却するメリットとして次のようなものがあります。
原状回復の費用が不要
スケルトン状態での返却と異なり、居抜きでの売却では原状回復工事をする必要がありません。工事の費用も必要ないため、閉店時にかかる費用を大きく削減できます。
造作譲渡料を受け取ることができる
居抜きでの売却は、内装や設備、什器などの造作物を譲渡し、その譲渡料を受け取ります。
原状回復工事の費用がかからないだけではなく、造作譲渡料を受け取ることができるため収支の差はさらに大きくなります。
期日直前まで営業を続けられる
居抜き売却の場合、原状回復工事の工期をとる必要がないため、契約満期の直前まで営業を続けられます。店舗の売上がないまま家賃だけを払う期間が少なくなります。
解約予告期間の家賃を免除される可能性も
賃貸借契約では、解約を申し出てから解約日までの期間は実際に使用していなかったとしても家賃を払うことになっています。これは家主側も収入のなくなる期間をできる限りなくすために必要な仕組みです。
しかし、居抜きでの売却は後継の借主が決まった状態で引き渡しとなり、空白期間がなく家主の家賃収入が継続します。そのため、解約予告期間が終わるまでを待たずに解約を合意してもらえることが多く、空家賃の発生が免除されるケースが大半です。
具体的な金額での比較
では、具体的な金額ではどのような差が生まれるでしょうか。居抜きでの売却とスケルトンでの返却を比較してみます。
例として、次のような条件で閉店したとします。
- 保証金200万円
- 家賃20万円
- 解約時保証金償却40万円
- 解約までの期間6カ月
この条件においてスケルトンにするため原状回復工事に100万円がかかったとすると、閉店コストとして60 という計算になります。
保証金200万円−(家賃20万円×6カ月+工事費100万円+保証金償却40万円)= −60万円 |
一方、居抜き物件として売却した場合はどうでしょう。
原状回復工事は不要なため工事費はかからず、退去までの間も営業を続けられるため空家賃を払う必要がありません。この居抜き店舗が150万円で売れたとすると、結果として310万円が手元に残ります。
保証金200万円+売れた額150万円−保証金償却40万円= 310万円 |
マイナス60万円とプラス310万円、その差は370万円にもなります。
このように、飲食店を閉店する場合にもその方法により大きな差があるため、閉店時にどのように店舗を手放すかは十分に検討しなければなりません。
飲食店を売却する流れと注意点
飲食店を居抜きとして売却するとき、一般的に次のような流れで進めます。
事前準備と契約内容の確認
必要な書類を準備し契約内容を確認しておく段階です。賃貸契約書を再確認し、解約予告期間、原状回復義務など重要事項を確認します。また、別途、覚書等を交わしていないかの確認も必要です。
設備の中にリースのものがある場合は、リース契約書も準備しリース品をリストアップします。
居抜き店舗売却のプロに連絡・相談
賃貸借契約に原状回復の記載がある場合、居抜きでの売却について家主との交渉が必要です。
借主に代わり専門家が合理的な説明を交えて交渉することで、居抜き売却の許諾を得られる可能性が高くなります。専門家に連絡・相談し仲介を依頼しましょう。
家主との交渉と承諾
家主と交渉し居抜き売却の承諾をもらう段階です。ここで承諾を得られなければ居抜き売却は不可能です。交渉は専門家に任せることが成功の鍵となるでしょう。
物件の現地確認と売却金額の査定
居抜き店舗の売却の承諾が得られたら、現地調査を行い造作物の確認をします。
造作譲渡料は造作物個々の価値だけで決まるものではありません。立地や周辺環境による集客力も含めた物件の価値によって査定額が決まるのが一般的ですので、現地確認が重要となります。
購入希望者を募集開始
ここまで進んだら、居抜き店舗購入者の募集を開始します。居抜き売却の専門サイトなどで購入者を募集することで、居抜きに狙いを定めて探している人の目にとまりやすく、購入希望者が早く見つかりやすくなります。
売却条件の交渉
購入希望者が見つかったら、造作譲渡の範囲を具体的に決め、価格や負担などについて交渉していきます。綿密な交渉と取り決めが必要となるため、専門家に交渉を任せると円滑に進みます。
家主と新借主の合意
売る側と買う側で売却の条件が決まり双方合意したら、家主と新借主が新たな賃貸借契約締結する旨の合意を得ます。
造作譲渡契約の締結
家主と新借主との間で合意が成立したことで、居抜きの売却を進める条件が完全に整いました。売却をする人と購入を希望する人で造作譲渡契約を結びます。
家主と旧借主が合意解約・新借主が家主と新たに契約
居抜き売却をする旧借主が賃貸借契約を合意解約します。それと同時に、新借主が家主と新たに賃貸借契約を結び、物件を引き渡しを受けます。
居抜きの売却はこのような流れで進むのが一般的です。各段階で専門家でなければスムーズに進められない部分も多く、有利な条件での売却を望むなら専門家に依頼するのが得策です。
飲食店を売却する流れと、各段階での注意点については、こちらでさらに詳しく解説していますのでご覧ください。
「飲食店を売却する方法とは?閉店するとき役に立つ売却方法の知識とコツ」
飲食店を高く買い取ってもらうコツは?
飲食店を売却する際、可能な限り高い価格での売却を目指すのは、心理的にも実利的にも当然のことです。次の事業につなげやすくなり、それまでの経営における赤字の補填に役立てることもできます。
では、どういった条件を満たし、どのような点に注意すれば高く買い取ってもらえるのでしょうか。飲食店を高く買い取ってもらうコツとして、あらゆる飲食店に共通するのは次のような点です。
飲食店に特化した設備に着目
グリストラップやダクトなど、飲食店で重要な設備は特に注目されるポイントです。これらの設備は、汚れ・使用感・手入れの状態などが念入りにチェックされる場合が多く、売却価格に大きく影響することが多い部分です。
しっかりと清掃し、必要があれば修繕した上で交渉することで売却価格の引き上げにつながります。
厨房設備は問題なく使用可能か
大型冷蔵庫・グリルなどの厨房設備は、居抜きを購入希望する人にとって期待の大きい設備です。その有無や稼働状態によって売却価格が左右されるだけでなく、購入希望者が見つかるかどうかにも大きく関わってきます。
大型冷蔵庫やグリルなどの厨房設備が問題なく使用可能か、使用できないとしたらどれほどの修理で使用できるのかを明確にしておきましょう。
装飾・壁・窓などの清潔感
飲食店にとって、集客やリピート率にも大きく関わってくるのが店舗の清潔感です。この重要な意味を持つ清潔感が損なわれていては、飲食店の店舗としての価値も損なわれている状態になっているといえます。
装飾や壁、窓など、内装の状態は査定額にも大きく関わってきますので、清潔感を意識して清掃、修繕を施しましょう。
買取業者を絞る
居抜き物件の売買や造作譲渡に関して、確実に売れるという自信がない業者は根拠なく極端に低い査定額を提示しがちです。これは売れなかった場合のリスクを考えると当然のことですが、だからこそ業者選びは重要であることを表しています。
実績のある業者は販路や販売のノウハウも確立されているため、的確な価格の提示が可能です。実績のある業者に絞って買取を依頼することが買取価格の底上げにつながります。
居抜きの場合は営業中の案内がベスト
居抜き物件の売却において、その価格は造作物の価格をそのまま計算して決められるのではありません。その店舗の立地や周辺環境も含めた集客力や可能性を総合的に評価して決定されます。
営業している状態で店舗売却の交渉をスタートすることで、現状把握がしやすく購入希望者も見つかりやすくなります。また、購入希望者を募集する期間も営業を続けられるため空家賃を払う期間も短くなり、コストの面でもメリットとなります。
「価格が下がる条件」から考えてみる
高く買い取ってもらう方法を考えるとき、「こういう状態なら価格が下がる」という方向から考えてみるのも手段の一つです。
床や壁などの内装が汚れている状態で査定に臨んだらどうでしょう。査定額が下がることは予想できます。これと同様に、什器やダクト、グリストラップが汚れている、厨房設備が壊れているといった状態は査定を下げる状態といえます。
これらの状態を改善しておくことで高く売れる条件を整えておくことが大切です。
また、店舗の売却額で精算ができないほど設備や機器のリース残債が大きい場合、物件の制限・制約が厳しく飲食店経営に支障がある場合も査定は不利になります。店舗内部の仕切りや間取りが悪く席数や動線が確保できていない場合にも、飲食店としての価値が損なわれていると判断されます。
こういった部分も、売却の前に改善しておくことで、多少売値が高くなっても買い手が見つかりやすくなります。
飲食店の居抜き店舗を高く買い取ってもらうコツについては、こちらでさらに詳しく解説しています。飲食店売却をご検討されている方はぜひご覧ください。
飲食店を閉店するにあたり必要な手続き
飲食店を閉店する際に、どのような手続きが必要なのか把握しておくことも大切です。飲食店を閉店するときの流れや必要な手続きを確認してみましょう。
飲食店を閉店するときに必要な流れ
飲食店を閉店するとき、次のような流れで進めます。
- 解約予告:家主または物件を管理する不動産会社
- 原状回復工事の手配
- 行政機関などへの届け出
- レンタル・リースの解約と返却
- 電気・ガス・水道の解約
- 取引先への連絡
- 顧客への案内
また、法人の場合は上記に加えて次のような手続きも必要です。
- 登記:解散・清算
- 解散広告
この部分だけ見ても、必要な手続きが多いと感じられるのではないでしょうか。この中で、行政機関への届け出を詳細に見るとさらにさまざまな手続きが必要です。それぞれの行政機関で行う届け出を見ていきましょう。
届出の提出先と行政機関
飲食店の廃業届は、所轄の保健所へ提出します。廃業日から10日以内の提出と定められています。同時に飲食店営業許可書を返納します。
警察署にて
「深夜酒類提供飲食店営業開始届出書」を取得している場合は、警察署で手続きします。廃止届書を取得し廃業日から10日以内に提出します。「風俗営業許可書」を取得している場合は返納理由書を提出し、営業許可書を返納します。
消防署にて
消防署では「防火管理者選任(解任)届出書」の解任の手続きをします。
税務署にて
税務署では、「個人事業の開業・廃業等届出書」及び「給与支払い事務所等の開設・移転・廃止届書」の手続きを廃業日から1カ月以内に行います。「所得税の青色申告の取りやめ届出書」は翌年の3月15日までに、「事業廃止届出書」は事業廃止後即時の手続きが必要です。
個人事業主の場合
個人事業の場合は、都道府県税事務所において廃業の届け出をします。届出書の名称や提出期限は都道府県ごとに異なるため確認しなければなりません。
雇用保険と健康保険に加入している場合
雇用保険と健康保険に加入している場合には、日本年金機構での手続きも必要です。「雇用保険適用事業所廃止届の事業主控」のコピーと「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」を廃業日から5日以内に提出します。
また、雇用保険の加入がある場合は公共職業安定所への届出もします。「雇用保険適用事業所廃止届」、「雇用保険被保険者資格喪失届」、「雇用保険被保険者離職証明書」を廃業の翌日から10日以内に提出する必要があります。
労働保険に加入している場合
労働保険に加入している場合は、労働基準監督署に対し「労働保険確定保険料申告書」を提出します。事業の廃止又は終了の日から50日以内の手続きが必要です。
このように、飲食店の閉店の際は種々の行政機関に赴いて手続きをする必要があります。記入しなければならない届出書も多く、それぞれ手続きが必要なため、着実に1つずつ進めていかなければなりません。
飲食店を閉店する際に必要な手続きについては、下記のコラムでさらに詳しく解説しています。閉店の際の参考として一度目を通しておき、いざ閉店という際には手順の参考としてご活用ください。
まとめ
あらゆる業種の中でも飲食店は閉店する件数が多く、世界の情勢や環境の変化によっても大きな影響を受け増減します。こういった飲食店を取り巻く環境や状況を乗り越え、次の事業へとつなげていくために、閉店という道を選ぶ場合にもその中で最良の手段を選択していかなければなりません。
多くの場合、居抜き物件として造作譲渡をするのが最もメリットの大きい選択です。飲食店の閉店をお考えでしたら、手続きの方法、高額売却のコツも含め豊富なノウハウを持つ居抜き市場にご相談ください。