飲食店閉店で必要な手続きと流れをわかりやすく解説
飲食店経営が軌道に乗らない、思うような利益が上げられないなどの理由で閉店を考えるということは少なくありません。また、現在の場所から新たな立地への移転を考えるケースもあります。しかし、閉店をするにしても役所などで多くの手続きが必要となるため、流れを確認しておかなければなりません。ここでは飲食店を閉店するにあたり、必要となる手続きとその周辺情報、手続きを進める際の注意点を解説していきます。
飲食店を閉店する際の流れ
最初に飲食店を閉店する際に必要となる項目を確認していきます。流れについては、状況によって項目の順番が前後する場合もありますが、一般的な例を紹介します。
解約予告:貸主または物件を管理する不動産会社
店舗の賃貸借契約をしている場合には、解約の手続きをしなければなりません。賃貸借契約書ではほとんどの場合、解約をする際、解約通知の提出が必要とされています。住宅の賃貸借では解約前1カ月程度の通知とすることが多いのですが、店舗の場合には3カ月から長ければ の解約予告が求められます。
解約通知は店舗物件の貸主や管理している不動産会社に書面で提出します。解約予告期間を確認の上、早めに行動する必要があります。
さらに、もう一つ注意したいのは解約予告をした後、実際に退去するまでの期間も家賃が発生するという点です。閉店に関してはこのことを考慮に入れて、計画していくことが大切です。
原状回復の手配
一般的に店舗の賃貸契約書には、退去時にスケルトン状態に戻すという原状回復義務が盛り込まれているケースが多く見られます。退去時には原状回復が完了している必要があるため、日時を逆算して手配を行います。
店舗の原状回復では、建物躯体のみに戻す場合が多く、内装や設備も取り除いた状態になります。ただし、契約内容によっては異なることもあるため、賃貸契約書を確認し、不明点については貸主または管理する不動産会社に問い合わせておくと安心です。
行政機関などへの届出
飲食店の開業時には各機関への届出が多数あります。閉店に関しても、同様の届出が必要です。詳しい内容については後述で解説しますが、手続きによって決められた期間があるため、一覧表でチェックしながら進めていくのがおすすめです。
レンタル・リース物品の解約と返却
店舗の備品として使用しているものに、レンタルやリース品がある場合には返却し契約を解約しなければなりません。レンタルの場合には一定期間の使用料を支払って使う仕組みのため、不要であれば返還し、延滞金がなければ契約は終了となります。
一方、リースでは途中解約が想定されていません。残債がある場合、契約を解除するためには一括支払いをする必要があります。閉店時のリースの扱いについてはいくつかの対処法がありますが、いずれにしても物品を一方的に返却すれば終了というわけではないので、注意が必要です 。
電気・ガス・水道などの解約
閉店に向けて電気・ガス・水道などのエネルギー関連や、音楽放送などのサービス関連の解約も忘れないようにしなければなりません。それぞれに締めとなる日が決まっているため、間に合わないと翌月分までの支払いが生じてしまいます。
取引先・顧客への連絡
食材やアルコール類などの仕入れ業者への連絡も、早めにするようにします。場合によってはそれまではかけ払いで済んでいたものが、現金払いとなる可能性もあります。トラブルを避けるためにも、誠意をもって対応しましょう。
これまでご贔屓にしてもらった顧客には、メールやはがきなどで閉店を通知します。店を閉める1カ月くらい前から、お知らせを貼り出しておくのも良いでしょう。ご縁をいただいたお客に対して、できる限りもれのないよう、感謝の気持ちを伝えることが大切です。
法人の場合に注意したい手続き
法人経営の店舗の場合には、個人事業主とは違う手続きが必要です。
- 登記:解散・清算
法人経営の飲食店を閉店し、法人自体を廃業するときには、解散と清算の手続きをしなければなりません。解散は法人登記の抹消、または、法人格の消滅となる作業です。清算は債務の返済・債権の回収を行った後、残った財産を分配します。
順番としては、法人の解散から2週間以内に解散手続きと清算のための清算人登記を行います。その後は、清算手続き完了から2週間以内に清算結了の手続きが必要です。
- 解散広告
株式会社と合同会社の解散にあたっては、官報に2カ月以上の解散広告を出す必要があります。また、合名会社と合資会社では解散日から2週間以内に、解散公告を1カ月以上官報へ出さなければないことが決められています。これらは債権者に解散を伝えるためのものですが、債権者に対しては個別の広告も必要です。
届出を提出する行政機関について
行政機関などへの届出について、詳しく見ていきましょう。
- 保健所:所轄の保健所へ「廃業届」を、廃業日から10日以内に提出します。併せて「飲食店営業許可書」の返納も行います。
- 警察署:開業時に「深夜酒類提供飲食店営業開始届出書」を提出している場合には、「廃止届書」を取得し、廃業日から10日以内に提出します。
「風俗営業許可申請書」を取得している場合には、「返納理由書」を取得。営業許可書の返納時に併せて提出します。「風俗営業許可」の取り消しについては、これを怠ると30万円の罰金が発生する可能性があります。
- 消防署:「防火管理者」の解任を届出ます。特に提出期限は設けられていませんが、廃業した日を解任日として記載します。
- 税務署:個人事業の廃業にあたっては、必ず届出が必要です。
「事業廃止届出書」は、事業廃止後に即時手続きしなければなりません。
「個人事業の開業・廃業等届出書」・「給与支払い事務所等の開設・移転・廃止届書」については、廃業から1カ月以内に提出します。
「所得税の青色申告の取りやめ届出書」は、申告時期となる翌3月15日までに提出が必要です。 - 都道府県税事務所:個人事業の場合には廃業の届出が必要です。
届出書の名称や提出期限に関しては、各都道府県により異なるため、所轄の税事務所に問い合わせて確認してください。 - 日本年金機構:雇用保険・健康保険に加入している場合には届出が必要です。
「雇用保険適用事業所廃止届の事業主控」のコピーおよび「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」を、廃業日から5日以内に提出します。 - 公共職業安定所:雇用保険に加入している場合には届出が必要です。
「雇用保険適用事業所廃止届」「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」を、廃業の翌日から10日以内に提出します。 - 労働基準監督署:労働保険に加入している場合には届出が必要です。
「労働保険確定保険料申告書」を事業の廃止または終了の日から50日以内に提出します。
飲食店閉店手続きのポイント
飲食店閉店手続きに関しては、不備のないように進めていかなければなりません。閉店手続きを実施する際のポイントを解説します。
- チェック項目とスケジュールを一覧表にする
これまで見てきたように、閉店手続きには非常に多くの作業が伴います。うっかり失念したり、書類の提出が遅れたりした場合には、過料や追徴課税が発生する可能性もあります。そうした事態を回避するためには、するべき手続きを一覧にし、提出や手続きの期日がひと目でわかるようにしておきます。完了したもの、手続き中のものをチェックしながら、見落としのないように進めてきましょう。
- 早めに必要書類を準備
記載が必要な書類や添付する書類は、手続きに間に合うように早めの準備を心がけます。多くの届出用紙がインターネットからダウンロードできます。また、電子申請ができるものについては、そちらを活用するとさらに処理がスムーズになります。
- 不明点を明らかに
閉店手続きには、難しい用語や多様な提出の形式が出てきます。不明な点は独断で判断せず、必ず窓口に問い合わせるか、プロのアドバイスを活用するようにしましょう。不備があると最初からやり直しということも起こり得ます。二度手間にならないように、しっかりと確認しながら手続きに臨みましょう。
まとめ:これらの手続きが面倒な場合は、店舗売却という手も!
飲食店の閉店手続きは、焦らずに順を追いながら片づけていけば、初めてであっても完了できます。しかし人手が足りなかったり体調がすぐれなかったりして、思うように進められないということもあるでしょう。手続きの負担を減らして店を閉める方法としては、店舗売却という手もあります。選択肢の一つとして、検討してみてはいかがでしょうか。