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「利益をつくる」セントラルキッチンで各店の仕込みを効率化

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フードサービス・ジャーナリスト千葉哲幸 連載第十八弾
新宿ドミナント「絶好調」の効率化作戦 前編

 
この度のコロナ禍の中で飲食業は実にたくましく動いている。筆者が4月から経験した、それぞれの店の新しい取り組みは、「テイクアウト」「デリバリー」「EC(通信販売)」「オンライン飲み会」、居酒屋の「日中野菜販売」「休業店舗でのパン販売」「惣菜販売」、前回紹介した「日中かき氷営業」などさまざまだ。感染防止対策・営業時間短縮の協力要請の範囲内で店内営業を行わずに、いかにして売上をつくるかという知恵を絞ることが展開されていた。
 
これらの奮闘している動向に感銘を受けていた6月のある日、筆者は新しくできた「会員制居酒屋」に招かれた。これが実によく考えられた仕組みを搭載しているので、今回の前編・後編で紹介させていただこう。同店からは「会員制なので住所は非公開」といわれているので、是非行ってみたいと思った場合、人伝で場所を教えてもらおう。
 

「新宿ドミナント」をフルに生かした効率化作戦

同店を経営しているのは株式会社絶好調(本社/東京都新宿区、代表/吉田将紀)である。
 
この「会員制居酒屋」の本来の役割は「セントラルキッチン」である。チェーンレスランでは当然の機能であるが、複数店舗を展開しているところでも、キッチンでの仕込み作業を効率化する上で重要な役割を果たす。100とか1000の単位のチェーン店では冷凍技術を持ってこの役割を全うさせるが、5店舗10店舗の規模ではむしろ割り切ってすべてを店内調理にした方が、個店としての特徴が磨かれ競争力をつけることになるだろう。
新宿エリアの社員が14時に一斉にCKに集まり17時過ぎまで集中して仕込みを行う【新宿エリアの社員が14時に一斉にCKに集まり17時過ぎまで集中して仕込みを行う】
 
そこでこの絶好調の場合、東京・新宿エリア(西新宿、歌舞伎町)に8店舗を展開していいたことから、このエリアの中心あたりにセントラルキッチン(以下、CK)をつくれば各店舗の仕込み作業が効率化できるのではないかと考えた。この構想は1年ほど前から上がっていて、この度思惑通りの物件と巡り合うことができた次第である。
 
その物件は10坪、8店舗のCKを果たすには申し分のない広さである。さらに「利益をつくるCK」にするという構想が膨らんだ。
 
同社では、コロナ禍で5月の1カ月間を全店休業、この間社員には課題図書を与え、zoomによって階層別に数字や接客などに関する研修を行った。6月からは東京都の要請に従い20時まで営業する体制に戻し、西新宿地区で展開する店舗ではテイクアウト販売やウーバーイーツによるデリバリーを行った。他の店も通常の営業体制に戻していった。
 
CKは5月5日に開設した。ゴーストレストランを3店舗運営するとともに、店内にはカウンター席を中心に15席を配して、リアルな居酒屋を6月26日より会員制で営むことになった。
仕込みの間には交代にまかないを摂る【仕込みの間には交代にまかないを摂る】
 

各店舗の8割に相当する仕込みをCKで行う

CKの専従者は責任者と社員1人の2人体制。14時に各店舗の社員がここに集まり、集中して仕込み作業を行い、17時ごろに仕込んだ食材をそれぞれの社員が自店に持っていく。各店舗のグランドメニューに相当する8割の仕込みをこのCKで行い、残りの2割は各店舗オリジナルで「おすすめ」「日替わり」をつくっている。
 
飲食業が調理をCK化することによって、店舗段階の料理のクオリティが下がるという説がある。これは各店舗のメニューをCKで一律につくってしまうからに他ならない。絶好調の各店舗の社員の中には将来独立を希望する人材もいることから、前述の店舗裁量の2割の中で仕入れのために市場を巡り、自ら選んだものを自ら調理してお客と接して修練するという機会を設けているわけだ。
キッチンを取り囲むカウンターがリアル居酒屋の客席となる【キッチンを取り囲むカウンターがリアル居酒屋の客席となる】
 
CKによる最大のメリットは新鮮な食材を新鮮な状態で使い切ることができること。かつては、大きな魚を仕入れた時に1店舗では使い切れないことがあったが、今では他の店舗に振り分けることができる。また、端材の量が集まることによって1つのメニューができるほどになった。そして、予約が多い店を中心にして、仕入れた食材を完売する作戦を立てることができる。
 
では、リアルの居酒屋を普通の営業の〝お客さまオールウェルカム″ではなく、なぜ「会員制」という限定的なものにしたのだろうか。後編に続く。
 
(後編)に続きます。

 

千葉哲幸(ちば てつゆき)

フードフォーラム代表 フードサービス・ジャーナリスト
柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく最新の動向も追求している。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。
 

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